2026.02.04 業界動向

EC事業者のための「見えない決済ロス」セルフチェック10項目

売上に計上されない「決済ロス」の正体

ECの売上が思ったほど伸びない。CVR改善や広告施策には取り組んでいるのに、成果が頭打ちになっている。そんなとき、多くのEC事業者が見落としがちなのが、決済まわりで静かに発生しているロスです。

 

ユーザーは購入意思を持ち、決済画面まで進んでいるにもかかわらず、売上として計上されない――この「見えない決済ロス」は、レポートにも数字にも表れにくく、気づかないまま積み上がっていきます。

 

本記事では、売上に直結するこの見えないロスの正体を整理し、「自社の決済は本当に健全か?」を確認するためのチェックリストと、その読み解き方を解説します。 

「見えない決済ロス」とは何か?

ECの売上を考えるとき、多くの担当者がまず思い浮かべるのは「流入数」や「CVR(購入率)」、「顧客単価」といった指標ではないでしょうか。広告の成果はどうだったのか、ページ改善によってCVRは上がったのか、キャンペーンによって客単価は伸びたのか。これらは日常的に確認され、会議でも当たり前のように議論されている数字です。 

しかしその一方で、ほとんど意識されないまま放置されがちな領域があります。それが、今回取り上げる「見えない決済ロス」です。見えない決済ロスとは、「購入意思があり、決済画面まで進んだにもかかわらず、売上として計上されなかった損失」のことを指します。ユーザーは商品を選び、カートに入れ、支払い直前まで進んでいます。それでも最終的に購入が成立しなかった場合、その時点で売上は発生せず、多くの場合、その理由も深く追われることはありません。 

この見えない決済ロスは、いくつかの典型的な事象によって発生します。代表的なものは、次のとおりです。 

決済エラー

入力ミスや通信エラー、システム的な不具合などによって、決済処理が正常に完了しないケースです。ユーザー側の操作ミスに見える場合でも、実際には環境依存やシステム要因が絡んでいることも少なくありません。 

 

承認拒否 

カード会社(イシュア)の判断により、正規の取引であっても承認されなかったケースです。利用限度額や一時的な判定ロジックなど、EC事業者側ではコントロールできない要因で発生することもあります。 

 

3Dセキュア離脱 

3Dセキュアの認証画面に遷移したものの、操作の煩雑さや心理的な不安から、ユーザーが途中で購入を諦めてしまうケースです。セキュリティ強化の副作用として起きやすいロスの一つです。 

 

不正対策による誤判定 

不正防止のために設定したルールや判定基準が厳しすぎることで、本来は通すべき正当な取引までブロックしてしまうケースです。「不正を防いだ件数」だけでは見えにくいロスでもあります。 

これらに共通しているのは、「売上になっていないにもかかわらず、失敗として強く認識されにくい」という点です。広告レポートには出てこない、売上管理表にも直接は現れない、「失注」として明確にカウントされることも少ない。その結果、こうしたロスは「一定数は仕方ないもの」「決済だからブラックボックス」として扱われがちになります。 

しかし実態として、これらはすべて「購入直前」で発生しているロスです。言い換えれば、最も売上に近い場所で起きている損失でもあります。 

 

ここでリアル店舗に置き換えて考えてみてください。 

商品を手に取り、買い物かごに入れ、レジに並び、いよいよ会計の順番が来た瞬間、店員から「申し訳ありません。レジが故障しているため、お会計ができません」と告げられる。思わず「では、どうすればいいですか?」と聞き返すと、「レジの不具合なので、私たちではどうすることもできないんです」と返ってくる。この状況に、多くの人は戸惑いや不満を感じるでしょうし、「もういいや」と商品を棚に戻して店を出てしまう人もいるはずです。

 

ECの決済で起きていることは、実はこれと非常によく似ています。ただしリアル店舗と違い、その“異常”は目に見えません。売上として計上されなかった事実だけが、理由も説明されないまま、静かに消えていきます。それにもかかわらず、これらは「売上が減った理由」として明確に語られることが少なく、結果として誰にも気づかれないまま積み上がっていく。これこそが、「見えない決済ロス」の正体です。

こうした状況を前提に、「自社は本当に大丈夫なのか?」を確認するためのセルフチェック項目を整理していきます。

決済ロスを可視化できるセルフチェック10項目

ここでは、決済まわりの状態を客観的に把握するためのセルフチェック項目を整理しました。各項目について、「はい」と即答できるかどうかを確認してみてください。 

チェック項目確認ポイント
▢ ① 3Dセキュアの導入・設定変更前後で、決済承認率や離脱率を比較している「セキュリティを強化した結果、売上や離脱がどう変わったか」を数値で説明できるか
▢ ② PSP(決済代行会社)の変更や設定変更前後で、売上・承認率の差分を説明できるPSP切替や設定変更が売上に与えた影響を把握できているか
▢ ③ 最新のセキュリティガイドラインの要件と更新内容を理解し、自社の対応状況を説明できる「対応しているつもり」ではなく、どこまで対応しているかを言語化できるか
▢ ④ カード会社(イシュア)別の承認率を、定点的(日次・週次・月次など)に把握している全体数値ではなく、イシュアごとの傾向を把握できているか
▢ ⑤ 決済エラーの理由を、エラーコードだけでなく事象で説明できる「なぜ決済できなかったのか」を事業側が理解できる状態か
▢ ⑥ 「今の決済状態は健全か?」と聞かれて、即答できる指標がある感覚ではなく、判断基準となる数値を持っているか
▢ ⑦ 決済エラー後の再購入率・再決済成功率を把握しているエラーがどれだけ回収できているかを見ているか
▢ ⑧ 「不正を防いだ件数」だけでなく、防ぎすぎた可能性を確認できている正当な取引を止めていないかを検証できているか
▢ ⑨ 不正検知ルールや判定条件を変更する際、売上影響を事前に仮説立てしている 「念のため強化」が売上に与える影響を想定できているか
▢ ⑩ 決済に関する問題を、感覚ではなくデータで議論できている売上減少や離脱増加、決済手段の利用比率、決済エラーの要因内訳などの理由を数値で説明できるか

このチェックリストは、「努力しているか」「対策をしているか」ではありません。決済の状態を、把握し・説明し・判断できる状態にあるかどうかです。次章では、これらのチェック結果をどのように読み解き、どんな状態にあると言えるのかを整理していきます。

チェック結果の読み解き

第2章のチェックリストで、「はい」と答えられた項目はいくつありましたか。 
ここでは、その数をもとに、現在の決済状態を3つのフェーズに分けて整理します。重要なのは、点数の良し悪しではなく、今どの状態にあり、何が課題になりやすいのかを正しく理解することです。 

「はい」のチェック数 現在の状態状態の特徴起きやすいリスク
0〜3個見えない決済ロスが最も発生しやすい状態決済まわりで何が起きているかを把握できていないため、問題があっても気づけず、改善しても効果検証ができない売上減少の原因が分からず、同じロスを長期間放置してしまう
4〜6個 課題は認識できているが、判断材料が不足している状態承認率やエラーの存在は見えているが、「どこを・どの程度」改善すべきかの判断が属人的不正対策やPSP切替などの判断を先送りし、改善余地を逃し続ける可能性がある
7個以上決済を高いレベルで可視化できている状態で、次に問われるのは改善の質決済を一定レベルで可視化できており、データをもとに議論が可能改善施策の優先順位や、売上とセキュリティの最適バランスが課題になる

この表が示しているのは、「対策が足りているかどうか」ではありません。チェックできなかった項目が、そのまま“見えていない決済領域”であるという事実です。

0〜3個の状態では、そもそもロスが起きていることに気づけません。4〜6個では、課題は見えているものの、判断に必要な材料が足りず、意思決定が止まりやすくなります。そして7個以上の状態になって初めて、「どこまで不正を抑えるのか」「承認率をどこまで最適化するのか」といった、より高度な判断が求められるフェーズに入ります。

まずは“決済を可視化する”ところから

ここまで見てきたとおり、「見えない決済ロス」は特別な失敗や異常によって生まれるものではありません。決済エラー、承認拒否、3Dセキュア離脱、不正対策による誤判定。いずれも多くのECで日常的に起きている事象であり、気づかないまま売上に影響を与え続けています。

チェックリストで確認できなかった項目は、言い換えれば「データが存在していない」「把握できていない」領域です。そして、データがなければ、改善も、説明も、社内外との議論もできません。不正対策を強めるべきかどうか、3Dセキュアの設定を見直すべきか、PSPを変更すべきか。これらはすべて、判断材料が揃ってから考えればいい話です。

重要なのは、いきなり施策を打つことではありません。まずは、決済まわりで「何が起きているのか」を正しく把握し、売上に直結する領域を可視化すること。その土台があって初めて、過剰なセキュリティや不要なロスを減らし、売上と安全性のバランスを取った意思決定が可能になります。

決済はブラックボックスだから仕方がない、という時代は終わりつつあります。見えるようになれば、判断できる。判断できれば、必要な改善だけを選べる。その積み重ねが、結果としてEC全体の売上と顧客体験を押し上げていきます。

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