2025.12.16 事例・対談

【ラクーンHD × YTGATE 対談】セキュリティ投資はどこでリターンを生むか? 2026年のEC決済トレンドとセキュリティ対策

BtoB-EC化率6%の現場が語る、「攻めのセキュリティ」と決済最適化のリアル

中小企業向けBtoB-ECプラットフォーム「スーパーデリバリー」、BtoB後払い決済「Paid(ペイド)」、売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」など、商取引を支える多様なサービスを展開するラクーンホールディングス(以下、ラクーンHD)。同社は東証プライム市場に上場し、Eコマース事業とフィンテック事業の両輪で“中小企業の商流DX”を推進してきた企業グループです。

 

今回は、日本の中小企業の商流DXを長年にわたり牽引してきたラクーンHDの執行役員・三原氏と、「なめらかな決済(決済最適化)」の実現に挑むYTGATE 代表取締役 高橋による対談をお届けします。なお、YTGATEは外部資本を入れずに事業を展開しており、今回は第三者視点からの評価をいただくべく、ラクーンHD様のご協力のもとで対談が実現しました。

 

本記事では、三原氏と高橋の対話を通じて、2026年のEC決済トレンド、BtoB-ECの成長機会と課題、サプライチェーンセキュリティ、そして決済承認率が担う新たな価値について語りました。

◆対談にご協力いただいた方

株式会社ラクーンホールディングス
執行役員 経営管理本部 経営企画部長
三原 正大(みはら・しょうた)氏

2016年にラクーンホールディングスへ入社。財務経理を起点にキャリアを築き、その後、経営企画としてグループ全体の戦略立案や管理体制の強化に従事。2025年には執行役員 経営管理本部 経営企画部長に就任し、同グループが展開するコマース事業・フィナンシャル事業を担う子会社の取締役も務める。現在は、予算策定、財務KPI管理、アライアンス、投資領域を統括し、中小企業が利用しやすい新サービス創出を目的とした提携業務の中心的な役割を担っている。

株式会社ラクーンホールディングス 

BtoB-ECはまだ「6%」。ラクーンHDが見る2026年のECトレンド

――まずは、BtoB-ECの現在地について教えてください。

三原氏:世の中では「BtoB-EC化率は40〜50%」と言われることもありますが、実態はまったく異なります。その数字には大企業のEDI(※1)なども含まれているため、中小企業に限って見ると EC化率は約6%しかありません。残り94%の企業は、今も展示会や対面での仕入れに依存しているのが現状です。つまり、中小企業の商流はまだまだアナログ中心で、BtoB-ECには大きな未開拓領域が残されています。

 

※1 EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換):企業間での取引において、請求書や発注書などのデータを電子的に自動的にやり取りする仕組み

 

――6%は意外な数字ですね。なぜ中小企業ではEC化が進んでいないのでしょうか?

三原氏:最大の理由は「ECに対するアレルギー」だと思います。

  • 出品作業が複雑で難しそう
  • 写真や動画の加工ができるか不安
  • どの商品が売れるのか分からない
  • そもそもECの知識がない

のように、デジタルに慣れていない中小企業ほど、ECを“特別なもの”と捉える傾向があります。私たちもスーパーデリバリーを運営する中で、こうした不安の声は非常によく耳にします。事業者が「ECを勉強して使いこなす」のではなく、誰でも簡単に始められる環境や仕組みを整えること が重要だと考えています。

そのため、ラクーンHDでは、AIを活用した写真・動画の自動加工や簡易出品ツールの拡充、売れ筋データに基づくレコメンドの強化などに力を入れています。BtoCでは一般化しつつある“出品支援”の仕組みを、BtoB領域にも持ち込むことで、中小企業の不安を解消する取り組みを進めています。

 

――2026年に向けて、BtoB-EC領域ではどのようなトレンドが生まれると考えていますか?

三原氏:大きく4つのトレンドがあると考えています。

  • EC化支援のフルマネージド化(“お任せ型”へのシフト)
  • AIを活用した出品・クリエイティブ生成の一般化
  • データを活かした仕入れ最適化・レコメンドの高度化
  • EC未経験の中小企業でも始めやすい支援サービスの拡大

BtoB-EC市場は、経験者だけが使いこなせる世界から、誰でも直感的に使える世界へと進化していくと思います。しかし同時に、EC化が広がるほど 不正リスクや与信リスクは確実に高まります。対面取引であれば、相手の雰囲気や会社の状況を直接確かめられますが、ECでは突然“顔の見えない取引”に変わるため、不安を抱える事業者は多いです。

そこでラクーンHDでは、未回収保証(URIHO)、AIによる異常検知、SNS・ブラックリストの自動クロールといった企業与信の高度化を進めています。EC化と不正対策は“比例関係”にあり、BtoB-ECが伸びるほど重要度は高まっていくと考えています。

YTGATEが担う「決済承認率」という新しい視点

――YTGATEの資料やご提案を通じて、どのような気づきがありましたか?

三原氏:一番大きかったのは、「決済承認率がコンバージョン(CVR)の重要な構成要素である」という点です。マーケティング担当であれば、広告、LP改善、UI/UX最適化など、CVRの手前のプロセスに対しては相当な投資と工夫をしています。しかし、決済の段階で落ちてしまった場合の“損失”に目を向けている企業はほとんどありません。

「決済で落ちたらすべて無駄」という当たり前のことが、実は誰にも認識されていない。この視点を体系的に示していただいたことが非常に印象的でした。スーパーデリバリーを例にすると、年間流通額は約300億円あります。この規模の事業において、もし決済承認率が1%低下した場合、

  • 流通額:3億円の減少
  • 手数料率10%の場合、売上:3,000万円の損失

という計算になります。これは想像以上に大きなインパクトで、「承認率の改善自体が売上成長に直結する」ということを強く実感しました。

 

――つまり承認率改善は“守り”ではなく“攻めの投資”だということですね。

三原氏:まさにその通りです。私の中でも「決済承認率=リスク管理」「セキュリティ対策の一部」と捉えていた部分があったのですが、実際には 売上を伸ばすための攻めの施策になり得ると考えています。マーケティングで獲得した顧客が、決済で落ちてしまうのは非常にもったいない。承認率改善は、既存の努力を最大化するためのレバレッジとして機能します。

 

――三原さんは、YTGATEに対して、どのような可能性や期待を感じていますか?

三原氏:大きな期待を感じているのは、トランザクションデータ(決済データ)の価値です。決済承認率改善の取り組みを進めるほど、

  • どのカードが落ちやすいか
  • どのチャネルでのエラーが多いか
  • どのカード会社の挙動に特徴があるか

といった“示唆”(インサイト)が蓄積されていきます。

ラクーンHDも、BtoB後払い「Paid」を通じて与信データを持っていますが、決済データは一段深い情報を含みます。YTGATEがこれらのデータを活用し、与信・マーケ・コンバージョンの改善へと拡張していく余地は非常に大きいと感じています。

 

――一方で、市場では同じようなテーマや切り口を掲げる企業も増えてきています。この状況をどのように見ていますか?

三原氏:正直に言えば、「パクられるのは筋が良い証拠」だと思っています。ここまで多くの企業が追随するということは、YTGATEの切り口が“正しい”という証明でもあります。ただし、真似ができるのは表面的な部分だけです。

本質的な差別化ポイントは、

  • どのPSP・どのECプラットフォームにも対応できる中立性
  • 決済 × 与信 × 不正 × UI/UX × 3DS の横断的支援ができること
  • カード会社交渉まで行えるプレイヤーは他にいないこと

といった「代替困難な構造的強み」にこそあります。

このポジションは簡単には再現できませんし、むしろ強みを磨けば磨くほど差は広がると感じています。

高橋:お話の通り、「代替できない構造的な強み」を持つことがYTGATEのテーマだと思っています。実際、その強みがもっとも現れるのは“決済インフラの領域”なんですよね。決済承認率の最適化を考えると、PSP選定や手数料の構造は避けて通れません。

 

――その構造的な強みという点で言うと、決済インフラの側にはどんな課題がありますか?

三原氏:最近は 手数料の値上げリスクや、PSPの増加による選択肢の複雑化が顕著です。私たちも実際に、あるアクワイアラから手数料の引き上げ提案を受け、別のPSPを検討したことがあります。しかし、

  • カード情報非保持化のためデータ移行に高額な費用がかかる(数千万円規模)
  • API連携の仕様がバラバラで、複数PSPの併用が難しい

といった障壁によって、簡単に切り替えることはできませんでした。

このような状況を踏まえると、「より決済承認率が高く、手数料も最適なルートに流すオーケストレーションの必要性」は今後さらに高まると感じています。ただし、日本ではまだ十分に機能しているプレイヤーが少ないため、ここは業界として大きな改善余地がある領域だと思います。

保険から「攻めの保証」へ。セキュリティ投資はどこでリターンを生むか?

――ここからは、ここからは少しテーマを変えて、セキュリティや保証について対談していただきたいと思います。2026年に向けて、セキュリティ領域にも大きな制度改正が予定されています。経産省の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ制度」についてはどのように見ていますか?

三原氏:ランサムウェア被害の7割が取引先経由といわれている中で、取引先企業のセキュリティレベルを可視化していくというのは、時代の流れとして必然だと感じています。ラクーンHDとしては、ISMSの取得やIPAガイドラインに沿った運用など、もともと基礎的な対策は行っていますので、制度そのものに特別な対応が必要というよりは、結果的に制度に合致していく形になると思っています。

 

高橋:そうですね。これまでは「セキュリティにどこまでお金をかけるか」は、各社ごとの判断に委ねられていて、どうしても“売上に直結しないコスト”として後回しにされがちな印象がありました。まさに「保険」と同じ構造ですよね。売上に直結しないものにお金をかけるのは、マーケ的な発想だとどうしても後回しにされがちです。

実は決済承認率も同じ文脈があって、「セキュリティ・リスク対策」として見られているうちは、どうしても“守りのコスト”に見えてしまうところがあります。今回のようにサプライチェーン全体で一定水準が求められるようになると、「やるかどうか」ではなく 「どのレベルまでやるか」 の議論に変わっていくきっかけになると感じています。

 

三原氏:おっしゃる通り、これから確実に重要度が増していくテーマだと思います。セキュリティはやろうと思えばいくらでも投資できてしまう領域なので、どこまでを必須ラインとして考えるか、そのうえでどこまで踏み込むかという見極めがますます大事になってくると感じています。

 

――その意味では、ラクーンHDの「攻めの保証」という考え方と、とても近いものがありますよね。

三原氏:そうですね。売掛保証って、普通は「何かあったときのための保険」という位置づけで語られることが多いんです。でも、それだけだと多くの中小企業にとっては「まあ、何かあってから考えようか」となってしまう。そこで私たちは、「攻めのための保証」 という打ち出し方もしています。

  • 新しい取引先に攻めていきたい
  • でも、その会社が本当に大丈夫か分からない
  • 与信リスクが怖くて踏み出せない

そんな時に、「じゃあ保証をかけておきましょう」とお伝えすると、一歩踏み出しやすくなります。“売上を伸ばすために保証を使う”という提案ですね。年商が大きい企業は、与信管理の文化が根付いているので理解が早いのですが、年商1億円未満くらいの企業になると「なんとかなるでしょ」という感覚もまだまだ強い。そこに対して「成長のためのツールとして保証がありますよ」と提示するようにしています。

 

高橋:それはまさに、僕らがやろうとしていることと同じですね。承認率改善も「不正があったら困るから対策しておきましょう」だと、どうしても優先度が上がりにくい。でも、「今のままだと◯%売上を取り逃がしていますよ。改善すれば◯千万円戻せますよ」と売上起点で語ると、一気に話が変わります。欧州向けの決済ソリューションを売っていたときも、「リスク対策」ではなく「売上を伸ばすためのソリューションです」と言い切ったほうが圧倒的に響いた経験があります。

 

三原氏:やはり、事業者として大切なのはそこですよね。「売上を伸ばします」「安心して攻められます」というメッセージが、経営として一番刺さるんだと思います。

 

――セキュリティ領域全体を、投資テーマとしてどう見ていますか?

三原氏:これはもう、言うまでもなく「伸びるに決まっている」領域だと考えています。今は誰も疑わない一番のキーワードが AI だと思うのですが、AIが進めば進むほど、自動化とセットでセキュリティの重要性が比例して高まっていくのは間違いありません。

AIと犯罪の組み合わせは、すでにいくらでも事例が出てきていますし、動画や音声も「本物かフェイクか分からない」レベルになってきている。そうすると、「あれ、最近不正多くない?」「そろそろちゃんと対策しないと」というモードに社会全体が切り替わるタイミングが必ず来ると思います。今はAI過渡期なので、本格的なサイバーセキュリティ投資の波は少し遅れてやってくるかもしれませんが、2026年前後は1つのテーマになると見ています。

 

高橋:AI側の伸びが先行して、そのあと少し遅れて“不正対策フェーズ”が来るイメージですね。そのときに、決済の世界でも「ペイメントオプティマイゼーション」が当たり前の概念になっている必要があると感じています。

――YTGATEは、日本に「ペイメントオプティマイゼーション」という概念を根付かせたいと考えていますが、レガシーな構造もあってなかなか簡単ではないと感じています。あらためて、YTGATEにとってペイメントオプティマイゼーションはなぜそんなに重要なのかを教えてください。

高橋:YTGATEのコーポレートミッションが「Payment Optimization & Beyond(決済を最適化して世界をつなぐ)」 なんです。

「Optimization」が決済承認率の改善や不正対策、3Dセキュアの設計、UI/UXの調整など、決済そのものを滑らかにする取り組み「Beyond」がその先にある「世界をつなぐ」という部分で、国・プレイヤー・サービスを越えて、お客様がストレスなく買える環境をつくることを意味しています。

ただ現実には、大企業の基幹システムは長年の継ぎ足しでレガシー化していて、PSPとの連携も1本きりだったりする。ここを変えていかないと、どれだけ上流を最適化しても、最後の決済で取りこぼしが出てしまうわけです。

 

三原氏:EC事業者の立場で言うと、「最適化=システム同士がちゃんとつながっている状態」なんですよね。ところが、大企業ほどサービスが増え、基幹システムは継ぎ足しの歴史で複雑になり、柔軟性が欠けていきます。

うちも今とあるPSPを使っていますが、以前、手数料を上げるという話が出たことがありました。そのタイミングで別のPSPも含めて検討したのですが、最終的には

  • カード情報非保持化でデータを預けている
  • そのデータを別PSPに移すのに数千万円規模の移行コストがかかる
  • APIやシステムも二本立てにできず、「二刀流は無理です」とエンジニアに言われた

という事情があって、結局PSPを増やすことができませんでした。

決済手数料って、アクワイアラの交渉次第で上下しやすく、うちにとってはかなり大きなボラティリティリスクなんです。本当はPSPを2つ持っておいて、上げられたらスッともう片方に逃がすみたいな世界が合理的だと思っているのですが、現状の仕組みだとかなり難しいのが実情です。

 

高橋:今のお話が、まさに“オーケストレーション”が必要とされる理由だと思っています。

  • 一番通りやすいルート(承認率の高いルート)に流す
  • 手数料が安いところに自動的に流す
  • 障害時には別ルートにフェイルオーバーする

大手プラットフォーマー、いわゆるGAFAクラスの事業者は、自分たちで複数のPSPやアクワイアラをつなぎ、自前でスマートルーティングを回しているケースが多いです。一方で、日本市場向けのペイメントオーケストレーションを提供すると言っているプレイヤーがいても、国内PSPとの完全な接続までは進んでいません。「できる」と言いつつも、実はまだ本当の意味ではできていないのが現状です。

 

――最後に、2026年のEC決済とセキュリティについて、時間が解決する部分と今から仕込むべきことは何でしょうか?

三原氏:レガシーなシステムの更新や、複数PSPとの連携、オーケストレーションの普及は、最終的にはユーザーサイド(消費者・事業者)のニーズに押し出される形で進むと思っています。飲食店がカード決済に対応せざるを得なかったように、「対応しないとお客様に選ばれない」状態になれば、どんなにレガシーでも変わらざるを得ない。その意味では、時間が解決する部分もかなりあると感じています。

 

高橋:だからこそ、2026年に向けて僕らがやるべきなのは、

  • 「承認率が落ちるとどれだけ売上を失うのか」を健康診断レポートで見える化すること
  • セキュリティや保証を「守り」ではなく攻めの投資として再定義すること
  • そして、中立な立場から「最適な決済の通し方」を提案し続けること

だと考えています。

 

三原氏:BtoB-ECはまだEC化率6%ですが、これから必ず伸びていきます。そのときに、セキュリティ・保証・決済承認率の最適化が“攻めの成長戦略”として語られている状態をつくれるといいですよね。

 

高橋:はい。「悪い人だけ通さないで、買える人はちゃんと買える世界」を、ラクーンHDさんと一緒に広げていければと思います。

 

――ありがとうございました。

 

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