JTBとYTGATEの共創で変わる、旅行業界の新しい不正抑止と承認率改善
不正抑止と承認率改善を両立し、数字で語れる仕組みへ
国内外のパッケージ旅行、宿泊単体商品、地域観光イベント、法人向けのMICEなど幅広い事業を展開し、全国に180以上の店舗を構えている株式会社JTB(以下、JTBグループ)。
今回は、旅行業界を長年リードしてきたJTBグループが、実際にこうした課題にどのように向き合い、YTGATEの「YTGuard」を導入して不正抑止と決済承認率の改善を両立しているのか、その取り組みを、同社経営企画チームマネージャー 水野洋一氏と、YTGATE代表 高橋祐太郎の対談形式でご紹介します。
否決1件が大きな機会損失に、旅行業界の決済課題
――まずは、御社のECチャネルの現状について教えてください。
水野氏:JTBグループでは、店頭販売と並行してECチャネルを展開しており、非常に幅広いサービスをオンラインで取り扱っています。近年ではEC販売が大きく伸びており、当社にとってもECは重要な販売チャネルになっています。
――決済面では、どのような課題があったのでしょうか?
水野氏:課題は、カード会社のセキュリティ審査が強まった結果、真正なお客様の決済が保留されてしまうケースが業界全体で増えてしまったことです。せっかく旅行商品に関心を持ち購入しようとしたお客様が、決済段階で離脱してしまう。こうした状況は顧客体験を損なうだけでなく、ブランド全体への不信感にもつながりかねない業界共通の課題でした。
もうひとつの課題は、情報のブラックボックス化です。どのカード会社で、どのような理由で承認が落ちたのかが事業者側からは見えず、数か月後になってようやく不正や否決の傾向が把握できる――このタイムラグによって対応が遅れ、改善も後手に回ってしまう可能性がありました。
――そうした課題に対して内部で対応する手段もあったと思いますが、なぜ外部パートナーであるYTGATEに相談されたのでしょうか?
水野氏:不正利用への対応は専門性が求められる領域であり、社内だけで十分に対応するのは難しいと感じていました。そこで、日頃から取引のある決済代行会社からのご紹介でYTGATEさんを知ることになりました。
高橋さん(YTGATE代表)は決済の仕組みに精通されており、導入に向けた検討が非常にスムーズに進みました。最初の段階から、不正抑止と承認率改善を両立させる具体的な提案をいただけたことが、大きな決め手になりました。
最初に取り組んだのは『健康診断』です。EC決済データを分析し、承認率や不正発生率を定点観測する取り組みですが、結果を見て「こんなに承認されていなかったのか」と衝撃を受けました。感覚的に落ちているかもしれないと思っていたことが、数字で裏付けられたのです。この『ファクトの可視化』は社内合意形成に大きく役立ち、経営層に対しても投資効果を説明できるようになったのは大きな一歩でした。
さらに、不正利用の手口は日々変化するため、内製だけでは限界があります。YTGuardはデータをエビデンスとして提示し、イシュア(カード会社)ごとの承認率やエラー理由を明らかにしてくれるため、外部の専門パートナーと組むことが合理的だと改めて判断しました。
高橋:旅行業界のように高額商材を扱うECでは、1件の否決がそのまま大きな売上インパクトにつながります。だからこそ、まずは「どのカード会社で、どんな理由で取引が落ちているのか」を明らかにすることが出発点でした。 YTGATEとしては、カード会社に十分なデータ提供を行うことで、カード会社との対話や調整ができる環境を整えることを最も重視しています。
リアルタイムに異常を捉え、数字で示す新しい決済マネジメント
――導入後、どのような効果がありましたか?
水野氏:データを基に不正利用対策の強化を進め、カード会社との対話を進めることで承認率を改善させた結果、収益面にもプラスの影響がありました。さらに、これまで2〜3か月遅れでしか把握できなかった異常を、日次レベルでモニタリングできるようになったのは大きいです。 リアルタイムに近い粒度で状況を把握できるようになったことで、異常検知や社内判断のスピードが格段に上がりました。
また、効果として特に大きいのは、数字で証明できるようになったことです。以前は感覚的な議論に留まりがちでしたが、今はデータを根拠に因果関係を伴った説明ができる。現場も納得感を持って動けるようになり、結果として社内の意識も変わりました。決済データを自ら確認し、改善行動を考える文化が少しずつ根づいてきています。
高橋:これはJTBさんに限らずですが、事業者が数字で語れるようになると、社内の空気が大きく変わります。承認率や不正率のデータを根拠に『どの対策に投資すべきか』『どのチャネルを優先すべきか』といった経営判断が迅速になりますし、現場も納得して動ける。単なるシステム導入ではなく、意思決定プロセスそのものを変える仕組みになり得る点が大きいと思います。
――なるほど。実際の現場ではどうでしょうか、印象的だったエピソードはありますか。
水野氏:はい、実はこんなことがありました。ある時、特定のカード会社における承認率が一時的に大きく落ちる事象がありました。これまでなら全く気づけない、もしくは数か月後にようやく気づくレベルのものですが、YTGuardで毎日データを追っていたことで即座に把握できました。すぐにカード会社へ確認したところ、旅行業界全体で外部からの攻撃が多発したことを受けて業界全体のセキュリティ基準を一時的に厳格化していたことが原因であると判明しました。事業者側だけでは絶対に分からない情報で、まさに「数字で見える化したからこそ気づけたこと」でした。
高橋:それは確かに加盟店側からは気づけないですね。加盟店が承認率の急落に気づき、カード会社に『なぜ落ちているのか』と直接確認できるケースはほぼありません。普通はこれが「知らぬ間の失注」として、気づくこともなく終わってしまう、もしくは気づけたとしても「仕方ない」で終わってしまいます。今回のように、原因を突き止めて正しい対策を打てる状態をつくれたことは、 YTGuard導入効果の象徴だと思います。
水野氏:重要なのは、こうした異常を放置しないことです。データがなければ「感覚的に売上が減ったかな」で終わってしまいがちですが、今は根拠を持ってカード会社とやり取りできる。これによって現場も「自分たちの行動が数字につながる」という手応えを持ち、改善サイクルを回せるようになっています。
決済基盤が支える、「安心して買える」旅行体験を共に創る
――今後の展望についてお聞かせください。
水野氏:不正利用の手口は日々進化しており、常にアップデートが求められます。まずは各ECサイトごとに不正利用をより一層抑える取り組みを進め、安心・安全に商品をご購入いただける環境を整えることが大前提です。そのうえで、お客様が「安心して買える」と感じていただける体験を積み重ね、販売拡大にもつなげていきたいと考えています。
不正利用はゼロにすることが難しい領域だからこそ、『可視化 → 対策 → 検証 → 改善』のサイクルを高いレベルで回し続けることが重要です。また、チャージバックや配送停止といった事後対応を自動化できれば、業界全体の効率化にも貢献できます。理想は一つのソリューションで網羅することですが、まずは可視化と標準化を進め、安心と成長を両立できる基盤を作りたいと考えています。
高橋:おっしゃる通り、不正はゼロにできません。ただ、ゼロにできないからこそどう向き合うかが問われます。我々としては、加盟店やカード会社と一緒にリスクを適切に分担しながら、安心して決済が通る環境を広げていきたいと考えています。
特に旅行業界は1件あたりの金額が大きく、顧客体験に直結する産業です。ここで培った仕組みやノウハウは、将来的に他の業界にも展開できると考えています。さらに今後は、イシュアや決済事業者とのデータ連携をより深め、業界全体の承認率を底上げする取り組みを加速させたい。加盟店だけでなくカード会社にとってもメリットのある仕組みを提示できれば、日本のEC全体の信頼性を高めることにつながるはずです。
旅行のような高額商材では、『決済が通らない』『不正が発生する』といった小さな不便が、大きな機会損失に直結します。我々は加盟店とカード会社の間の距離を埋め、承認率改善と不正抑止を両立する仕組みづくりを進めています。
水野氏:不正はなくならないからこそ、仕組みを持ち、常にアップデートを続けていくことが大切です。そうすれば、安心と成長の両立が実現できると私は信じています。
――水野さん、お話しいただき、ありがとうございました。