2025.10.09 事例・対談

決済の“見える化”が顧客体験の中核に──カメラのキタムラが挑むUXと不正リスクの最適バランス

全国600以上の実店舗とECを融合させたオムニチャネル戦略で知られる「カメラのキタムラ」。近年では中古カメラや交換レンズといった高単価・リユース商材の需要も伸び、非対面での購入機会が急増しています。

そうした中、同社が注力しているのが「決済データの可視化」です。今回は、執行役員 EC事業部長 兼 コンタクトセンター部管掌の伊東政之氏に、YTGuard導入の背景と成果、今後の展望を伺いました。

オムニチャネルECにおける決済の重要性

――まず、貴社のEC事業の全体像について教えてください。

伊東氏:カメラのキタムラでは、自社サイトに加えて楽天やYahoo!などのモールにも出店し、ECを展開しています。特徴的なのは、全国約600の実店舗と一体化した「OMO(オムニチャネル)」モデルで、オンラインで注文された商品の多くが店舗受け取りとして選択されている点です。

また、環境意識の高まりも背景に、中古カメラや交換レンズといったリユース商材のニーズも高まってきました。こうした高単価商品は、不正利用リスクもありますし、購入体験のスムーズさが売上に直結します。

――ECの成長に伴い、不正利用やUX面での課題もあったのではないでしょうか?

伊東氏:そうですね。3Dセキュアなどの対策は既に導入していましたが、肝心の「なぜ決済が通らないのか」「どこでお客様が離脱しているのか」といった定量的な把握ができていなかったのが実情でした。

承認率の低下がUXにどれほど影響しているのか、どのカード会社でどんな傾向があるのかといった原因が見えないまま、決済エラーが起きている状態でした。

“決済の見える化”でUX改善と社内意識改革を実現

――YTGuardを知ったきっかけと、導入を決めたポイントを教えてください。

伊東氏:ダッシュボードでイシュアごとの承認状況が見えるという点にまず惹かれました。また、YTGuard上で必要情報を入力・設定するだけで簡単に導入できる仕組みで、POC(概念実証)として始めやすかったのも大きな理由です。

他の類似サービスも検討しましたが、PSP(ペイメントサービスプロバイダー:決済代行会社)に依存しない仕組みであること、必要なデータだけを取得できる点が我々には合っていると思いました。

 

――実際に導入してみてどのような成果がありましたか?

伊東氏:健康診断のような形で3ヶ月間分析を行ったのですが、そこで見えてきたのが「不正対策とUXのバランス」の調整余地です。UI/UXの小さな改善でもカゴ落ちが減ることが分かり、実際にコンバージョンが改善しました。

また、意識面の変化も大きかったですね。社員の間で「決済は意外と奥が深い」「このお客様はなぜ買えなかったのか?」と、データを見て考えるようになりました。これは決済の見える化ができなければ起きなかった変化です。

 

――社内展開では、苦労された点もあったと聞いています。

伊東氏:そうですね。「決済の見える化」と言ってもピンとこない人が多く、最初は説明に苦労しました。特に、クレジットカード決済=通るか通らないか、という認識で止まっていると、見える化の必要性は伝わりにくいと感じました。

ただ、一度ダッシュボードを見てもらうと、「これは便利だね」と理解が進みました。今後は朝礼で昨日の決済結果をサマリーで確認できるような仕組みにしていきたいと考えています。

 

インタビューの後半では、今回の取り組みを一緒に推進してきたYTGATE代表の高橋が加わり、両者の視点から“決済のこれから”を語り合いました。

1人のユーザーが“どこで離脱したか”を知るために

高橋(YTGATE代表):伊東さんからよく出てくるキーワードが「見える化」ですが、最近、我々もクライアントの課題としてユーザー単位での見える化へのニーズが急増していると感じています。

例えば、1人のユーザーが1回目の決済で失敗して、2回目で成功したのか、それとも途中で諦めて離脱してしまったのか。そこが分かると、ECの改善余地は一気に具体化すると思います。

伊東氏:まさにその点は重要なポイントだと思います。今は注文単位でのデータはある程度追えますが、ユーザー単位で連続性を持って追う仕組みはまだ不十分です。ユーザーがどの段階でつまずいて、最終的にどう行動したかが分かれば、「何が本当にUXの壁になっているのか」をもっと正確に捉えられると思います。

高橋:そうですね。さらに高額商材だと1回の離脱が大きな損失になりますよね。例えば、受注総額が2億円、そのうち1億円が承認NG、でも8,000万円はリトライされていて、結局2,000万円がロストしているというような構造が見えると、改善インパクトが明確になります。

伊東氏:おっしゃる通りです。リユースのカメラなどは1点ものが多いので、「買えなかった」経験はお客様にとって結構ショックなんですよね。「もう一度来てください」が通用しません。その損失が見えるようになることで、社内の改善意欲や投資判断にも説得力が出てきます。

日々の業務に“決済の振り返り”を組み込む文化へ

 高橋:先ほど「朝礼で決済状況を共有したい」という話がありましたが、まさに決済データを日常業務のサイクルに組み込む段階に入ってきていると感じます。

伊東氏:はい。日々の決済や購買行動の傾向がタイムリーに把握できれば、その時点で現場が迅速に改善策を検討できます。受注や売上と照らし合わせながら「どこに改善余地があるのか」をすぐに把握し、次の一手に反映したいですね。

高橋:商品やチャネルごとの傾向も加味して、複数の指標をまとめて振り返る世界ですね。我々としても、その自動化や統合の仕組みづくりが次の挑戦だと考えています。

伊東氏:ユーザー単位の行動や結果の流れが見えると、営業やマーケティングの打ち手も変わります。社内にあるさまざまなデータと組み合わせることで、より具体的な成長戦略が描けるはずです。

EC事業部 EC営業部部長 兼 EC商品第三グループリーダー 加久保 健氏もインタビューに同席

“安心して買える”場づくりを決済から始める

高橋:最後に、今後のEC運営で、どんな視点を大事にしていきたいと考えていますか?

伊東氏:「安心して買える」こと。それが何よりも大事ですね。商品力やコンテンツ力はもちろん大切ですが、「買える・通る・信頼できる」という決済体験があってこそ、その価値が伝わります。

高橋:まさに、決済はただの通過点ではなく、顧客体験の中核になりつつありますね。

伊東:そう思います。決済が変わることで、現場も、数字の見方も、顧客体験そのものも変わっていき、その「見える化」が、我々のECの次の成長を支えてくれると信じています。